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東日本大震災から10年目に寄せて
聖心女子大学
学長 髙祖敏明
本年は未曾有の東日本大震災と原発事故から10年の節目を迎えています。
改めまして震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、今もなお不自由な生活を送られている皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。
現在、復興が進み、新しい取り組みもなされ活気づいている場所がある一方で、人口の減少や高齢化が進んでいるところ、そして福島県の一部では今でも住民の方々が帰れない区域があります。去る2月13日には、東日本大震災の余震とも言われる大きな地震が福島沖を震源に発生しました。被害に遭われた方々に心よりお見舞いを申し上げます。またその際、大きな揺れに東日本大震災のことを思い出して恐怖を感じたという、たくさんの方の声を聞きました。物理的な面での復興が促進されていっても、心に受けた喪失感や傷が癒えるのには、より時間がかかります。さらに昨年から新型コロナウイルス感染症のパンデミックに見舞われ、復興に向けた行事や支援、工事などに大きな影響が出てきています。
まだ復興途上にある今、この10年間を振り返り、気持ちを新たに、被災地の方々と引き続きご一緒に歩んでいきたいと思っております。
聖心女子大学では、2012年から陸前高田市の復興支援活動に関わらせていただき、学生や教職員を現地に派遣するとともに、多くの方々との交流やつながりをもたせていただいています。2018年に仮設住宅がほぼ解消されたことなどにより定期的な派遣は終了し、その後は、福島県南相馬市での支援活動に携わらせていただいております。
2020年度は、これまで本学が行ってきた支援活動が、コロナ禍のなかで実施できない状況が生じました。県境をまたぐ移動が制限され、対面での活動が自粛されるなか、支援活動にも変化や工夫を余儀なくされました。こうした状況下での模索を通じて、次にご紹介いたします新しい形の支援活動が生まれ、従来の活動にまた新たな側面が加わったことは、ひとつの希望となるものと考えております。
● 災害や地域活性に関する授業
これまで、被災地の現状や防災に関する知識を学ぶ機会として、「災害と人間」という授業科目を8年間継続して設けてきました(2018年度からは「グローバル共生优德体育,优德w88体育appⅤ:災害と人間」に科目名変更)。本授業は、被災地の復興支援活動に自覚的に取り組むこと、また災害を自らの生活に関わるものと認識し、それに備えることを目的としたものです。今年度は、全ての回がオンラインでの授業となりましたが、本年も多くの学生が受講しました。授業は、本学の教員やゲスト講師がそれぞれの専門や立場から講義を行うものですが、オンラインの特性を生かし、各種講演や動画の配信が時間や距離に制約されず行えたことで、内容は一層豊かなものとなりました。その他、地域コミュニティの課題解決プロジェクトを実施するPBL(Project Based Learning)型の授業や、ボランティア経験を振り返り、報告書にまとめる実習等を行っています。
● Ecoマスクプロジェクト
本活動は、これまで「USH(The University of the Sacred Heart)ひとづくり?まちづくりボランティア in 南相馬」として、現地に学生を派遣していた活動に代わるものとして始まりました。学生が手作りで製作したマスクを頒布することで集まった資金を、福島の南相馬で復興支援活動をされている施設(「カリタス南相馬」、「和サロン眞こころ」)の活動資金として寄付するものです。マスクの製作方法について、製作のご経験の豊富な「和サロン眞こころ」の方からオンラインで教えを授かるとともに、現地の様子を伺うことで、今後の支援活動の手がかりを得るよう努めてまいりました。
● SHOC(Sacred Heart Organic Cotton)project
学生たちによって6年前から始められた「聖心オーガニックコットンプロジェクト」は、学内の畑で福島県産のコットンを有機栽培することを通じて、福島の復興を支援する活動ですが、本年度は、学内での作業ができなかったため、個人の自宅でコットンの栽培をするとともに、コットンを使った新しい商品の開発に努めました。実際の商品化は今後の課題となります。また、例年のスタディツアーに代り、現地よりオンラインでの講演をしていただき、被災地の現況における困難さを詳しく知ることで、自らの活動の意義を改めて確認し、同時に、今後の活動への手掛かりを得てきました。
● 食料品支援とクリスマスカードの送付
昨年8月には、福島県のカリタス南相馬からの要請を受け、緊急食料品支援を実施し、12月には、有志の学生が、復興団地の皆様に支援物資と一緒に届けられるクリスマスカードづくりに励みました。食料支援についての呼び掛けには多く方がすぐさま応じてくださり、たくさんの物資が大学に届けられました。また、カード作成に取り組む学生たちもこれまで以上に熱心でした。大震災や原発事故の影響に加え、コロナ禍という状況で苦しまれている方々への思いが一層高まっていることを感じます。大学として、このような思いと、現地のニーズとを繋ぐことの大切さを忘れず、今後もこうした活動の機会を逃さず、丹念に続けていきたいと考えています。
震災からの復興がいまだ達成されないなか、新たな災害ともいうべきコロナ感染の拡大は、多くの人々の生活を脅かすものとなっています。これまで本学が大切にしてきた互いが兄弟姉妹のように助けあう「愛の灯」を、学内外において培い、実践していくことがより一層求められていることを強く感じます。
教皇フランシスコは、神を中心とするとすべての人々は兄弟姉妹であり、お互いに支え合うよう導かれている、と説いておられます。日本そして世界でさまざまな災害が降りかかっている只中において、いま求められていることに、いまできることを、という姿勢を忘れず、自分の置かれている場所で、それぞれがお互いのためにできることを行っていく、このことは、本学の建学の精神にも通じるものです。今後も、他者への共感と柔軟な思考、そして果断さをもって、復興支援活動に誠実に取り組んでまいります。
本件担当:聖心女子大学ミッション推進会議 災害復興支援専門部会